ベルギーを知るための10冊

ベルギーはビールやチョコレートだけにとどまらない、多様な文化と歴史を誇る魅惑の国です。
文学や美術の話は別項に譲るとしても、例えば、楽器のサクソフォンを考案したサックスはベルギー人で、ユーロ導入前のベルギーフラン紙幣にもその肖像が使われていましたし、地図の投影法に有名なメルカトル図法というのがあり、みなさんも小中学校で習ったのを覚えておられると思いますが、これもフランドル(現ベルギー)のメルカトルの考案によるものです。
そのメルカトルによる世界地図帳が日本橋の丸善で売りに出され、その値段たるや1,500万円というのが話題になったこともあります。

ここではそんなベルギーのことをもっと知りたいという方のために、びあトモ スタッフが厳選したベルギーをよりよく知るための10冊とおまけのもう一点をご紹介します。
ここにあげた書籍はメルカトルの地図と違って比較的安価なものばかりにしましたので、それらに目を通せば、きっとあなたはただのビール好きではない、本当のベルギー通になれることでしょう。

ヨーロッパの首都 ベルギー美味しい旅 (Shotor Travel)

相原 恭子小学館ISBN : 9784093432016
ヨーロッパ紀行書の第一人者が美食の国を食べ飲み、旅して綴った至福の1冊。「ビール」と「グルメ」をキーワードにベルギーの魅力に迫る。

びあトモのオススメポイント

ブリュッセルやアントワープといった定番の観光都市から郊外の街、果てはワロニーの片田舎にある修道院まで、著者がベルギーの隅々までタイトルにもあるとおり美味しいものを食べ歩いた旅行記です。とは言っても、街について最初に訪ねるのはビアカフェだし、郊外に足を伸ばすのはそこに醸造所があるからで、修道院も実はオルヴァルでした。というわけで、少々の観光情報とある程度のベルギー料理の話と、ほぼ全編を埋め尽くすと言っても過言ではないビールの話からなる本書は、是非ビアラバーのみなさんにこそ手にとって欲しい一冊です。

ベルギーを知るための52章 (エリア・スタディーズ)

小川 秀樹明石書店ISBN : 9784750329246
中世以降、1000年近くにわたりヨーロッパの中心であり十字路でもあった現在のベルギー地域。本書はラテンとゲルマンが同居するベルギーの特徴を中心テーマに据え、歴史、地理、国際関係、言語、生活、文化などからこの国の魅力を浮き彫りにする。

びあトモのオススメポイント

ベルギーのことを幅広く学びたいのであればこの一冊です。歴史・言語・芸術・グルメ・EUの首都といった、今日ベルギーについて考えるときに話題となるテーマを一つ一つ簡潔にまとめた本書を読めば、ベルギーの全体像が見えてくると同時に、さらにこの魅惑の国のことを深く知りたくなることでしょう。

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「ベルギー」とは何か? アイデンティティの多層性』岩本和子 石部尚登[編]

物語 ベルギーの歴史 - ヨーロッパの十字路 (中公新書)

松尾秀哉中央公論社ISBN : 9784121022790
ビールやチョコレートなどで知られるベルギー。ヨーロッパの十字路に位置したため、古代から多くの戦乱の舞台となり、建国後もドイツやフランスなどの強国に翻弄されてきた。本書は、19世紀の建国時における混乱、植民地獲得、二つの世界大戦、フランス語とオランダ語という公用語をめぐる紛争、そして分裂危機までの道のりを描く。EU本部を首都に抱え、欧州の中心となったベルギーは、欧州の問題の縮図でもある。

びあトモのオススメポイント

待望のコンパクトなベルギーの通史が刊行されました。独立までのフランドル周辺の歴史概説に始まり、フランドルとワロンの地域主義・オランダ語とフランス語の言語問題を軸に、時の国王と政治の関わりにスポットを当てて、いかにして小国ベルギーが帝国主義の時代に大国に伍そうとしてきたか、そして、戦後、ベルギーが連邦・立憲君主国家へと向かった道のり、さらには連邦制になっても収まることのない分裂危機について描かれています。

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ブリュージュ ― フランドルの輝ける宝石』河原温
通史の次は都市の歴史を。ブリュージュという中世フランドルの中心都市を、交易・都市・祝祭・芸術の観点から読み解く1冊です。

スイス・ベネルクス史 (世界各国史)』森田安一・編
ベルギーだけではなく、周辺国も含めた通史を

大欧州の時代―ブリュッセルからの報告 (岩波新書)

脇阪 紀行岩波書店ISBN : 9784004309970
加盟国の東方拡大や、欧州憲法の頓挫を経て、EUはこれからどこへ向かうのか。そもそも巨大組織の仕組みはどうなっているのか。諸政策をめぐる熾烈な駆け引き、欧州外交の試みなどを多くの事例を通して描き出す。山積する問題を抱えつつも新しい可能性を模索し続ける、壮大な実験の現場からのレポート。

びあトモのオススメポイント

EUの首都としての現在のブリュッセルが紹介されている、手軽に読める新書です。2006年に刊行された本書に登場するEU首脳などはすでにその多くが交代しており、アクチュアルな問題を扱う本としては若干記述が古い部分もありますが、バルト三国や中欧などの計10ヶ国が参加したEU最大の拡大による当時の興奮が、事実を淡々と書き連ねる行間にもうかがえます。ヨーロッパ人のアイデンティティの問題や、EUの中のブリュッセル・ブリュッセルの中のEUの記述などは一読に値するものです。

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ユーロ危機 欧州統合の歴史と政策』ロベール・ボワイエ
レギュラシオン理論の泰斗ロベール・ボワイエによる、今もっともアクチュアルな問題であるユーロ危機分析

ヨーロッパがわかる ― 起源から統合への道のり』明石和康
ヨーロッパの起源からユーロ危機までを概観する通史を岩波ジュニア新書の1冊で

ヨーロッパのアール・ヌーボー建築を巡る―19世紀末から20世紀初頭の装飾芸術 (角川SSC新書カラー版)

堀本 洋一角川SSコミュニケーションズISBN : 9784827550672
アール・ヌーボー建築の魅力を伝えた専門書は世の中にあまたに存在するが、カメラマンの視点で捉えたガイドブックは本書が初めてである。彼はイタリア・ミラノから公共機関の交通のみを利用して、ヨーロッパ各地を巡り、アール・ヌーボー建築の素晴らしさを撮り続けた。デジタルカメラが主流になった今日ではあるが、銀塩写真=アナログ写真の醸し出す色合いや圧倒的な迫力は、デジタル写真とは一線を画すものであり、100年経過した今でも建物の存在感を伝えてくれる。

びあトモのオススメポイント

アール・ヌーボーと言えば、ギマール、ラリック、ガレなどのフランス人がまず思い浮かびますが、そんなアール・ヌーボー建築の本がなぜベルギーを知る本10選に入るのか。それはベルギー人ヴィクトール・オルタが初めてのアール・ヌーボー建築とも言われるタッセル邸などを手がけ、オルタ自宅(現オルタ美術館)などとともに世界遺産に指定されているからです。アール・ヌーボー建築単体で世界遺産になっているのは世界中でここだけ。ブリュッセル観光の際にはお見逃しなく。

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個の礼讃―ルネサンス期フランドルの肖像画』ツヴェタン・トドロフ
個人を個として捉える肖像ががいかに初期フランドル絵画で生まれたかを考察した名著

青い鳥 (新潮文庫)

メーテルリンク新潮社ISBN : 9784102013014
クリスマスイヴ、貧しい木こりの子チルチルとミチルの部屋に醜い年寄の妖女が訪れた。「これからわたしの欲しい青い鳥を探しに行ってもらうよ」ダイヤモンドのついた魔法の帽子をもらった二人は、光や犬や猫やパンや砂糖や火や水たちとにぎやかで不思議な旅に出る。〈思い出の国〉〈幸福の花園〉〈未来の王国〉――本当の青い鳥は一体どこに? 世界中の人々に親しまれた不滅の夢幻童話劇。

びあトモのオススメポイント

びあなびお勧めの10冊の中にベルギー文学の名作を1冊入れるとして、何を選ぶべきかとても迷いました。ベルギー象徴派の本領を知ってもらうならローデンバックの『死都ブリュージュ』の方がいいかもしれないし、作品の量や知名度、おもしろさで選ぶならシムノンは外せないし、今のベルギー文学ということならアメリー・ノートンだし…、などと考えたあげく、やはり古典中の古典『青い鳥』をお勧めします。どうせ読むなら、子ども向けに説教くさい童話としてリライトされたものではなく、オリジナルの戯曲でどうぞ。

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テレビジョン』ジャン=フィリップ・トゥーサン

ニューエクスプレスオランダ語

佐藤 弘幸白水社ISBN : 9784560067895
見やすい・わかりやすい・使いやすい! 会話から文法へ──はじめての入門書◆決定版。華、水、芸術......あの「牛乳を注ぐ女」を描いたフェルメールの国の言葉を学んでみませんか。

びあトモのオススメポイント

ベルギーの公用語の1つオランダ語の入門書です。一昔前はオランダ語を勉強しようとすると、テキストにさえ苦労したものですが、今は学びやすいことでも定評の白水社エクスプレスシリーズがあります。もちろん、ブリュッセルやアントワープのような観光都市なら英語が通じますが、やはり現地の言葉を挨拶だけでも覚えてゆくと楽しいものです。全20課からなる本書なら一月足らずでオランダ語の基礎をマスターできるかも。

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中級オランダ語 表現と練習』フレデリック・クレインス, クレインス桂子
数少ない(唯一?)オランダ語の中級テキスト。ベルギーのオランダ語についての記述もあります

ニューエクスプレス オランダ語単語集』フレデリック・クレインス, クレインス桂子
本格的な辞書ではありませんが、外国語をマスターする最大の秘訣は基本語彙の習得にあります

ベルギーの言語政策 方言と公用語

石部 尚登大阪大学出版会ISBN : 9784872593761
EUの中心であるベルギーは、フランス語・オランダ語の2カ国語を公用語とする国として知られる。この国の抱えることばの問題は大変根深い。国の独立時から展開される地域間の激しい言語対立の様子を議会資料他を丹念に調べ、住民が実際の使っていることばへの言及や政策が見られないこと、これが今後の大きな課題であることを提示している。

びあトモのオススメポイント

ベルギーが多言語国家であることには「ベルギーのことをもっと知ろう」のコーナーでも繰り返し言及しましたが、多言語・多文化であるということは時に対立を生み出します。本書はそのような「言語戦争」を中心に、ベルギーを取り巻く言語情勢とひの問題点を社会言語学的に論じた労作です。

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ベルギー分裂危機 その政治的起源』松尾秀哉
ベルギー分裂の危機を言語戦争からだけではなく、教会と世俗の対立という観点も踏まえて、1959年の教育改革にまで遡って考察

ランビック―ベルギーの自然発酵ビール

山本 高之技報堂出版ISBN : 9784765544689
近年,わが国においても,ベルギービールが市民権を得つつある。とりわけ,ベルギービールのなかでも異彩を放つランビックに関しては,ベルギービールを頻繁に飲まれる方やビール通ならば,その名を知らない者はいないのではないだろうか。その味も一度飲んだら忘れられない「酸っぱいビール」である。ビール評論家の故マイケル・ジャクソンはこんなことを書いている。「ランビックは,すべての者に注いでよいビールではない。だが,酒に強い関心をもつ者ならば,魅了させずにいない何かだ。その野性味と予測不可能性において,胸を躍らせる醸造酒だ。最良のものはビールとワインの合流点を具備し,最悪のものでさえ,古代の味覚へと誘ってくれる(Jackson;1998)」《本書「はじめに」より》

びあトモのオススメポイント

ランビックだけを扱ったランビックビールの専門書。ベルギービールの本は数あれど、ランビック専門書は本書だけ?

ベルギービールという芸術 (光文社新書)

田村 功光文社ISBN : 9784334031619
ビールであって ビールではない、その多彩、多様な魅力を五感で味わう
ベルギーの醸造家は、ホップや麦芽だけでなく、スパイスやハーブやフルーツの使い方についても、天才的な閃きとテクニックを駆使しています。よその国の醸造家が目の敵にして嫌う野生酵母すら、見事に手なずけて使い込んでいます。そんな彼らの手によって造り出されたビールは、ありきたりの美味しさをはるかに超えて、飲む人の心の隅々までジーンとしみ込みます。ベルギービール……、まさにビールの芸術品です。(著者のことば)

びあトモのオススメポイント

新書で手軽にベルギービールのことを学べます。ベルギービール概説とベルギービール図鑑の二部構成で、ベルギービールの大海にこぎ出すにはまずこの1冊から。ベルギービールの特徴、専用グラス、合う料理、アントウェルペンやブリュッセルのカフェ、ラベルの話など読んでも楽しいし、カラー図版も多数あるので眺めるだけでも楽しめますが、問題は飲んでから読むか、読んでから飲むか。

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REAL Book イラスト版 ベルギービール入門』藤原ヒロユキ
ベルギービールと料理とのペアリングを見ているだけで楽しくなるイラストで。

世界ふれあい街歩き ベルギー/ブリュッセル・ブルージュ [DVD]

ポニーキャニオン
○ブリュッセル【語り】牧瀬里穂 -ヨーロッパの十字路-
○ブルージュ【語り】中嶋朋子 -「北のベネチア」と言われる水の都 ベルギー・ブルージュ-

びあトモ オススメポイント

おまけのもう一点は本ではなくDVDです。旅人の視点になって現地の人と言葉を交わしながら街をそぞろ歩くシリーズから、ブリュッセルとブルージュ篇です。世界ふれあい街歩きシリーズのユーモラスな語り口とベルギーの美しい風景をお楽しみください。

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