フランドルとベルギーの美術

ベルギーには実は豊かな文化的伝統があるというのは既に見てきたとおりですが、こと美術に関しては、ベルギーとその前身であるフランドルには押しも押されぬ巨匠が目白押し、むしろ、美術史における一つの中心であったと言えます。
ここでは初期フランドル派・バロック・シュールレアリスムという3つの時代に焦点を当てて、フランドル・ベルギー美術の流れを概観しましょう。

初期フランドル絵画

美術史において初期フランドル絵画とは、フランドル地方における北方ルネサンス絵画を指すものとされていて、代表的な画家としてはヤン・ファン・エイクやウェイデン、メムリンク、フースなどが挙げられます。
年代的にはほぼ15世紀、イタリア・ルネサンスで言えば初期から盛期にかけて、いわゆるクワトロチェントに該当しますが、イタリア・ルネサンスとは違って理想としての古典古代という要素がなく、伝統的な宗教観に基づいた祭壇画や聖人画などに傑作が多いのですが、そこにゴシックとは明らかに違う画期的な写実性と細密描写が見られるのが特徴です。

『神秘の子羊』 ファン・エイク兄弟 聖バーフ大聖堂

再評価されるまで長きに渡って忘れ去られていた初期フランドル絵画の多くは海外に流出しており、ロンドンのナショナルギャラリーなどでも見ることが出来ますが、ベルギー国内に現存する代表作を一点だけ挙げるとすれば、ヘント(ゲント)の聖バーフ大聖堂にある祭壇画『神秘の子羊』(ヘントの祭壇画とも呼ばれます)でしょうか。フーベルトとヤンのファン・エイク兄弟の手になる幅4mを超える多翼祭壇画です。

デューラーが『ネーデルラント旅日記』の中で「あまりにも素晴らしい」、「殊にエヴァ、マリアそして父なる神が」と褒め称えています(前川誠郎訳岩波文庫版から引用)。
この祭壇画は20世紀中頃の修復の際に用いたニスが変色していることなどの理由で、2012年から5年間の予定で修復作業が行われていますが、修復中のパネルを除いて聖バーフ大聖堂で見学できるとのことです。

ピーテル・ブリューゲル

『イカロスの墜落』 作者不詳(ピーテル・ブリューゲルの原作に基づく) ベルギー王立美術館

16世紀になるとイタリアからの影響がフランドルにも入ってくるようになります。フランドルを代表する画家の一人ブリューゲルや北方マニエリスムが登場してきますが、それは同時に初期フランドル派の終わりを告げるものでもありました。ブリューゲルは一般的には北方ルネサンスの画家とされていますが、その寓意画へのこだわりや反古典的な手法などを見れば、むしろマニエリスムの画家であったと言えるかもしれません。

ブリュッセルの王立美術館にある『イカロスの墜落』は長らくブリューゲルに帰属させられていましたが、最近の研究でブリューゲルの原案に基づく同時代の画家の作品であるとされています。決して多くはないブリューゲルの真作はウィーン美術史美術館に10点以上が所蔵されています。

フランドル美術 その2 へつづく

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