日本のベルジャン・ホワイトを舐めてみた
published on 2015-02-01
日本で作られたベルジャン・ホワイト
「こんなビールを舐めてみた」第2回は日本で造られたベルジャン・ホワイトをテーマにお届けします。
筆者は小麦を使ったビールが好きで飲む機会も多いのですが、いや、よく舐めるのですが、小麦ビールの代表格といえば、ドイツのヴァイツェンとベルギーのヴィットビア(ホワイト・エールとかホワイト・ビールともいわれます)でしょう。
ヴァイツェンは「びあトモ試飲会 #2」で何種類か取り上げたので、こちらではベルギーのヴィットビアのテイスティングをすることとしましょう。
ところで、ベルギー流のヴィットビアは日本でも数多くラインナップされており、大手からクラフトビールの作り手まで多岐に渡ります。今回はそんな日本で造られたベルギー流のヴィットビア、名付けて「日本のベルジャン・ホワイト」を舐めてみることにしましょう。
また、コリアンダーやオレンジピールなどのスパイスの入ったベルジャン・ホワイトですから、料理もきっとスパイシーなものが合うはずと、タイ料理を中心にペアリングを試みてみました。
水曜日のネコ
まず、1本目はヤッホー・ブルーイングの「水曜日のネコ」です。
週の真ん中水曜日にほっと一息ついてビールをどうぞというコンセプトで造られた、とても飲みやすいビールで、最近はスーパーやコンビニでも売られている、日本のベルジャン・ホワイトとしては最も名の知られた1本かもしれません。
苦味が少なく、爽やかな香りと甘酸っぱさを楽しめる、これぞベルジャン・ホワイトといった味わいでしょう。
缶に描かれている少しとぼけた顔したネコの楽しさも加わって、スーパーなどで見かける度に思わず買ってしまう定番の1本です。決して、筆者がただの猫好きだとか、そんな話ではありません。
さて、この「水曜日のネコ」に合わせる料理はアメリカは南部テキサスの郷土料理チリコンカンです。
「舐めてみた」コーナーでは、基本的に誰でも簡単に同じビールと料理のペアリングを再現できるよう、あまり凝った料理にはせず、しかも、なるべく簡単に済ませるようにレトルトなどで出来合いを買えるものを中心に試していきます。
そこで、チリコンカンも本場テキサス風に肉メインのものではなく、日本でよく食べられている豆主体のチリコンカンにしました。
チリコンカンは直裁なチリの辛さが特徴で、酸味はトマト程度と少ないため、ベルジャン・ホワイトとはあまり合わないかと思いきや、料理の味がストレートな分、甘味をメインとしたビールの味わいがより深く感じられて、とてもビールが進むペアリングでした。
というわけで、相性度は5段階評価で星4つ(あくまでも料理との相性の個人的な評価で、ビールそのものの採点ではありません)。
水曜日のネコ X チリコンカン ★★★★☆
ホワイトベルグ
つづいては、サッポロビールが出しているベルジャン・ホワイト「ホワイトベルグ」です。
ベルギー産の麦芽を使い、ロゴマークではフランデレンの獅子がビアマグを傾けているという、日本の大手ビール会社が万人に向けて造った本格派ベルジャン・ホワイトです。
コリアンダーにオレンジピールを使うなどベルジャン・ホワイトの製法を踏襲したビールですが、他のより伝統的なベルジャン・ホワイトと比べると、「ホワイトベルグ」は濾過されているのが特徴で、さらにスパイス感も控えめ、スッキリと飲みやすくなっているのがポイントと言えます。
「ホワイトベルグ」とはタイ風レッドカレーを合わせてみました。
タイ・カレーとベルジャン・ホワイトの組み合わせは、当初からの予想通りなかなか美味しいのですが、残念なことにカレーがスパイシーすぎてビールの味を殺してしまいました。
ただ単にカレーの辛さを流すだけなら、ピルスナータイプでも変わらないような気がします。
しかし、1口目で辛さをある程度流した後、「ホワイトベルグ」を2口、3口とさらに飲みすすめると、ビールの香りが立ってきました。
ということで、他の3本と比べてスパイシー感控えめの「ホワイトベルグ」と今回試した料理の中でいちばんスパイシーなレッドカレーの組み合わせの評価としては、相性は悪くはないものの、互いに引き立て合う関係ではないということで、星3つです。
後日、もう少し酸味のある他のレッドカレーと合わせてみると、やはり、甘さが引き立って美味しく、星をもう一つ挙げてもいいかなと思いました。最初のペアリングはちょっと「ホワイトベルグ」に悪いことしたかなと反省です。
ホワイトベルグ X レッドカレー ★★★☆☆
Snow Blanche
3本目は小西酒造の「Snow Blanche」。日本におけるベルギービールの開拓者と言っても過言ではない小西酒造が自ら造るベルジャン・ホワイトですから、期待は高まります。
「Snow Blanche」の味の特徴は、爽やかな酸味と小麦の甘味といったベルジャン・ホワイトに共通の香り高さに加えて、コクのある深みを感じられるところでしょうか。フルボディというような重さがあるわけではないのに、味わいが最も濃いベルジャン・ホワイトの1つではないでしょうか。
ところで、「Snow Blanche」という名称ですが、もちろんのこと、小西酒造の清酒ブランド「白雪」にちなんでの命名だと思うのですが、なにゆえに「Neige Blanche(全部フランス語)」ではなく、「Snow Blanche」と英仏混成なのでしょうか?
また、カタカナ表記の「スノーブロンシュ」でも、blanche(「白い」という形容詞の女性形)を慣例では見た目に近く「ブランシュ」と転記することが多いのに、わざわざ実際の発音により近い「ブロンシュ」としています。
なにかこだわりの名前かなと、飲む度に想像をたくましくしながら楽しんでいます。
「Snow Blanche」に合わせるのは、タイ料理の代表格トムヤムクンです。
辛みも酸味も最高級のトムヤンクンですから、まあ、たいていのビールはそれを洗い流す役割として合うことは目に見えています。事実、タイではシンハーやチャンといったスッキリとしていてキレのあるピルスナー系が一般的であり、実際、十分に美味しい組み合わせなのです。
しかし、そこを敢えてベルジャン・ホワイトでいってみると、辛いトラヤムクンがSnow Blancheの甘味を引き立ててくれます。トムヤムクンの強い酸味がビールに少しある酸味を抑える方向に働くのも効いていると思われます。
正直言って、同じコリアンダー(=パクチー)を使っているベルジャン・ホワイトとタイ料理はよく合うに決まっていると、ある程度は最初から予想してかかっていたのですが、それ以上の相性の良さで、「舐めてみた」の趣旨に反して「飲んで」いました。
「Snow Blanche」には強めの甘味とコクがあって、スパイシーなトムヤムクンにも負けずに味わえるということで、今回の最高評価星5つ進呈です。
Snow Blanche + トムヤムクン ★★★★★
常陸野ネスト「ホワイトエール」
最後は常陸野ネストの「ホワイトエール」を舐めてみましょう。
海外での評価も高く多くの国に輸出されている常陸野ネストのビール、筆者もフランスとタイで見かけたことがあります(今は15ヶ国に輸出されているとのこと)。ホワイトエールはそんな常陸野ネストを代表する1本でしょう。
他のベルジャン・ホワイトと比べると、独特なスパイシー感の強さと甘酸っぱさをより感じます。原料としてナツメグやオレンジの果汁を使っているとのことなので、そのせいでしょうか。オリジナリティあふれるベルジャン・ホワイトです。
「ホワイトエール」は個人的にタイ料理でいちばん美味しいと(勝手に)信じているプーパッポンカリー(カニのカレー炒め)と一緒に飲んでみました。
プーパッポンカリーはタイのカレーとはいっても、辛さは控えめで卵も入っているので、とてもまろやかなシーフード、正に日本人好みの味となっています。ナムプリックパオという唐辛子ペーストのオイル漬け(というか味噌)をたくさん使っているので、その辺りのコクとマッチするかどうかが相性の決め手となります。
で、常陸野ネスト「ホワイトエール」とプーパッポンカリーの相性はどうかというと、これまででいちばん辛さを抑えた料理なのでビールのスパイスを殺すことなく、とはいえ、タイ料理ですからそれなりのスパイシー感があってビールの甘さを引き立てます。
また、ビール自体に独特のスパイス感があって、それがプーパッポンカリーの卵のまろやかさと絶妙にマッチしていました。
お互いに相手を高め合うという点では最高のマリアージュ、星5つといきたいところですが、なんかトムヤムクンと「Snow Blanche」の衝撃(大げさです)の後では予定調和のような気がするので、限りなく5に近い星4つとします。
って、これ、ホワイトエールもプーパッポンカリーもまったく悪くありません。ただの巡り合わせというか、食べた順番の問題でしかありません。でも、まあ、「舐めてみた」は筆者個人の印象記なので、出会ってしまった順番は変えられない、最良の人に巡り会う前にファム・ファタルに出会ってしまった(なんの話だ?)ということで、迷いましたがこのままにしておきます。
ホワイトエール X プーパッポンカリー ★★★★☆
全体として言えることは、辛さや酸味の強いスパイシーな料理とベルジャン・ホワイトはとても相性がよく、特にその甘味と旨みを引き出してくれるという点で、多くの人に気に入ってもらえる組み合わせではなかろうかと考えています。
辛いのや苦いのがそれほど得意ではない人にとって、カレーで口の中が火を噴いているところに苦いビールを流し込むなんてと敬遠されそうですが、そういう人にこそベルジャン・ホワイトがお勧めです。
さらには他のスパイスを使った料理、インドや南米の料理などとのペアリングを探ってみるのもおもしろそうです。
なお、今回は1度に4本のビールと4種類の料理を試したのではなく、一組ずつ4日間にわたって試飲試食したので、上に書いた以外の組み合わせは試していませんが、どんなペアリングにしてもそれなりの相性の良さを見せるのは予想がつきます。
後は好みの問題もでてきますが、どの組み合わせが最高なのか、ぜひ皆さんも試してみてください。
最初にも書きましたが、全ての料理は輸入食材などを扱うお店でレトルトでも買うことができるものばかりです。たくさん飲める方は、トムヤムクンかプーパッポンカリーと4種類全部のベルジャン・ホワイト、あるいは、さらにもっと多くのホワイトビールをペアリングしてみることをお勧めします。
author : kiyora
my favorite beer : Dead Pony Pale Ale