アイアン・メイデン『頭脳改革』(1983)

アルバムの代表曲『明日なき戦い』

さて、そんなPiece of Mindですが、ライブでも演奏されることが多く、アイアン・メイデンの代表曲の1つと言っても過言ではない、たった1つの例外とも言えるのがレコード当時のB面1曲目であったThe Trooper(邦題『明日なき戦い』) です。
ツインギターによる疾走してゆくかのごときメイン・リフは、しかし、当時台頭し始めていた西海岸HMのような明るいドライブ感は微塵もなく、この曲のテーマにもよく合致した悲壮感にみちた進撃を思わせて、アイアン・メイデン屈指のリフと言えるでしょう。

ところで、この曲は1854年のクリミア戦争におけるバラクラヴァの戦いをモチーフにした曲で、おそらくはイギリスの桂冠詩人アルフレッド・テニスンの『軽騎兵隊の突撃』という詩に着想を得たものと思われます。
タイトルのtrooperというのは騎兵隊の隊員のことです。
このバラクラヴァの戦いにおける軽騎兵団の突撃というのは、イギリス軍の命令系統の乱れのため、大砲で待ち構えているロシア軍に向かって軽騎兵隊600人あまりが何の援護もなく突撃してゆき、半数近くが死傷してしまったという惨憺たる戦いで、勇猛ではあるが無謀な突撃として絵画や文学の題材にもなってきたものです。そして、テニスンの詩によって長く記憶に留められることとなりました。

Half a league, half a league
Half a league onward
All in the valley of Death
Rode the six hundred:

これがテニスンの詩の冒頭部分です。「半リーグ[=1.5マイル]、半リーグ / 半リーグ前へ / 死の谷へ / 六百もの兵が進撃した」
そして、スティーブ・ハリスの歌詞も We won’t live to fight another day. (今日の戦いを生き延びて、明日を迎えることはないだろう)と歌っています。

ライブではこの曲のイントロとともにヴォーカリストのブルース・ディキンソンがアンプの上に現れて、ユニオン・ジャックを振り回すというのが見せ場の一つでしたし、残念なことに私の手元に残っていないので確証はないのですが、確か、当時、エディがユニオン・ジャックを持って突撃する様子を描いた変形ピクチャー・ディスクが発売されていたと思います。

Piece of Mind全体を改めて聴き直してみると、特にレコードA面は粒ぞろいで、ニコ・マクブレインのフィルインで始まるアルバム冒頭のWhere Eagles DareはストレートなHRナンバーでライブでもしばらくは演奏されていました。2曲目、叙情的なアルペジオが印象的なRevelations(邦題『悪魔の誘い』)も緩急織り交ぜた、今にして聴けば十分にドラマティックな構成になっている好曲です。
最初にシングルカットされたFlight of Icarus(邦題『イカロスの飛翔』)はややポップなメロディーラインとキャッチーなサビが特徴的です。当時、HR/HMにとってポップであるとかキャッチーであるとかいうことは、とかく否定的に語られることの方が多かったのですが、後に出されるSeventh Son of a Seventh son(邦題『第七の予言』)などと比べれば、Flight of IcarusはまだまだNWOBHMらしいナンバーと言えます。
B面の1曲目がこのアルバム随一の名曲The Trooperですが、それ以外でいくと、ラストナンバーのTo Tame a Land(邦題『惑星征服』)は本アルバム最長の曲で、その分、曲展開も大きく叙情的なナンバーになっています。 確かにThe Trooperを除くと、この1曲と言えるほどの決定打にかける嫌いはありますが、もっと見直されてもいいアルバムと言えるかもしれません。

kiyora

author : kiyora
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