アイアン・メイデン『パワースレイブ』(1984)
『暗黒の航海』はIPAで
BrewDogのPUNK IPAとLP版のPowerslave
さて、この曲に合わせるとすると、どんなビールがいいでしょうか。物語の鍵となるアホウドリをモチーフにしたビールはどうでしょうか?
イギリスのサマーセットにあるCotleigh BreweryにAlbatross Big Bitterというビールがあります。醸造所の地理的にもぴったり来そうですが(コールリッジはサマーセットに滞在して多くの詩を書きましたし、前ページの老水夫の像もサマーセットにあります)、どうやらCotleighのビールは日本に入っていないようです。
アメリカにはそのものずばりAlbatross Brewingという醸造所もありますが、どちらかというとゴルフのイメージのようですし、いずれにしても、これも入ってきていないようです。
アホウドリ以外でいくとしても、やはり、海にまつわるビール、それもアメリカ西海岸の陽気なものではなく、イギリスもの、種類としてはIPAでしょうか。
かつて大英帝国が日の沈むことがないと言われていた時代、冷蔵技術の未発達なこの時代にビールをインドまで運ぶため、アルコール度数を高めてホップの添加量も増やすことで品質を保とうとしたのが、インディア・ペール・エール IPA の起こりなのですから、まさに梗概にもあるように赤道を越えて航海するストーリーにふさわしいビールかもしれません。
今や大人気のIPAは実に多くの種類がありますが、その中から何を選ぶか。IPAといえばカリフォルニアが定番ですし、Stone IPAなどを勧めたくなるのですが、やはり、ここはイングランドでこそありませんが、スコットランドのBrewDogにしてみたいと思います。
BrewDogにはOld World India Pale Aleというラインナップがあって、これはイングランドのモルトとホップを使って、本当にイギリスからインドへと船に積んでビールを運んでいた時代のIPAを現代によみがえらせたということですから、これが手に入ればいちばんいいのですが、残念なことに限定醸造ビールでこの記事を書いている時点では売り切れ中でした(前ページの写真は東京リカーランドさんにご協力いただいた空き瓶のものです)。
ということで、BrewDogを代表する銘柄 Punk IPA と合わせることにしましょう。もちろん、グラスはSpiegelauのIPA専用グラスで。
Aces HighとSpitfire
SpitfireとPowerslave
曲順としては前後してしまいますが、『パワースレイブ』でいちばん有名な曲は一曲目のAces High(邦題「撃墜王の孤独」)かもしれません。躍動感あふれるイントロに続き、高速で攻撃的なリフ、たたみかけるようなブルースの歌唱、そして、印象的で歌いやすいサビ(キャッチーではない)、HM/HRファンが求めるもののすべてが揃っているアイアン・メイデンを代表する一曲と言えるかもしれません。
この曲は第二次世界大戦中のイギリス空軍パイロットのことを歌っており、歌詞の中にも出てくるour Spitfires(スピットファイア)というのがイギリス空軍の戦闘機、ME-109(メッサーシュミット109)が敵のドイツ軍の戦闘機の名前です。
正直なところ、戦闘機だとか戦史だとかには興味ないのですが、この第二次世界大戦初期のスピットファイアとメッサーシュミット109によるイギリスの制空権の争いはBattle of Britainと呼ばれ、歴史的に非常に意義のある戦闘だそうです。
ライブでもオープニングに演奏されることがよくある人気曲で、その際、イントロの前にウィンストン・チャーチルがイギリス下院で行った演説 We shall fight on the beaches の締めくくりの一部が流されます。
We shall go on to the end, we shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our Island, whatever the cost may be, we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender
この never surrender!! で観客が沸き上がったところでイントロが始まるというわけです。
さて、この曲にふさわしいビールはその名もずばりSpitfire、イングランドでも最古の醸造所Spheperd NeameがBattle of Britainの50周年記念に醸造を開始した、濃色でスパイシーなケント・エールです。
ラベルには先日危うくデザインが変わってしまうところだったユニオン・ジャックがひるがえり、ネックのところには戦闘機のシルエットとともにBOTTLE of BRITAINと書かれています。もちろん、Battle of Britainのもじりです。そして、王冠はイギリス空軍のマークである紺・白・赤の三重丸になっているというこだわりようです(ちなみに、スヌーピーがフライングエースに扮して乗る飛行機にも、このイギリス空軍のマークが描かれています)。
以上、聴きどころの多いアルバムだけに合わせるビールも3本選んでみました。50分程度のアルバム1つ聴くのに3本は飲みすぎかもしれませんが、仰々しくも壮大なラスト2曲を聴いた後だと、もう一度頭に戻ってアップチューンのAces Highを聴きたくなるので、少し本数も多めの方がちょうどいいのかもしれません。
おまけ : Where is the Village?
ビールSpitfireのラベルと王冠
もはや、ビールとはなんの関係もない話ですが、レコード時代B面1曲目にBack in the Villageという曲があって、歌詞の意味が分からないとよく言われますが、この曲にも実は典拠があります。 イギリスのテレビシリーズthe Prisoner(邦題『プリズナーNo.6』)がそれで、歌詞の至るところにthe Prisonerへの言及や引用があります。
ドラマの舞台はthe Villageと呼ばれる所在地不明の村で、突然その村に囚われて、名前ではなくNo.6と呼ばれるようになる主人公は何度も脱走を試みるのですが、毎回連れ戻されるので、曲のタイトルはそのことを言っているのでしょう。
I see sixes all the way や I don’t have a number, I am a name というところもそうですし、Questions are a burden and answers a prison for oneself というのはドラマに出てくる表現の引用です。
author : kiyora
my favorite beer : Dead Pony Pale Ale